1-1 ケイ酸植物について
ケイ酸植物には,稲の他,麦,竹,トウモロコシ,サトウキビ,ススキ,トクサなどがあるが,稲に最も多くのシリカが含まれ,稲の籾殻には約20wt%,稲わらには約12%もシリカが含まれている。籾殻の次に多いのが大麦(皮麦の場合,裸麦は殻と実が分離できない))の殻で,約5wt%シリカが含まれている。また,ビールの製造では,裸麦を殻も一緒に発芽させて原料として使うので,殻はでない1)。他のケイ酸植物では,サトウキビ,トウモロコシ,竹などがあるが,茎の部分に0.3wt%シリカが含まれているに過ぎない。サトウキビの絞りかすであるバガスには1.25wt%シリカが含まれている。要するに稲の籾殻だけが特異なのです。籾殻のシリカは環境を考慮した循環適合材料として,従来の鉱物資源とは全く異なる生産可能な鉱物資源として使用できる。
1-2 籾殻中のSiO2の存在状態および籾殻灰の形態
籾殻及び籾殻灰の形状を走査型電子顕微鏡で,SiO
2の籾殻と籾殻灰中の分布状態をX線マイクロアナライザーで調べた結果を既に報告されている知見と共に紹介する。
図1に籾殻の外界に接している表面(a)及び米粒に接している表面(b)のSEM写真を示した。外表面の半球状の突起物の径は15〜20μmで,籾殻の長軸方向に沿って規則正しく並んでいる。両端になるほど突起物の径は小さくなり,間隔も小さくなる。内表面は外表面と比べ平坦である。
図2
1)は,籾殻と藁の断面の模式図である。籾殻を組織構造的にみると米粒と接している内側の表皮(epidermis)があり,その上に柔組織(parenchyma),表皮下繊維組織(sclerenchyma),外界に接している外側の表皮(epidermis),表皮下繊維組織から表面に剛毛(frichome)がでている。ケイ素は分子状ケイ酸
(H4SiO4)の形で根を通して吸収され,外表皮の細胞壁の外側のクラクチ層との間にケイ酸ゲルの形で沈積し,表皮組織のケイ質化を行う。一方,藁は,中心に髄(medulla)がなくなった空間があり,その外側に厚い柔組織がある。表皮下繊維組織及び表皮は籾殻と比べたいへん薄く,クラクチ/シリカ層も薄い。籾殻の場合,表皮と内表皮の外側にクチクラ/シリカ層があり,この層が中心部にあるセルロースなどから成る繊維や柔組織を保護している構造のため,籾殻は腐らず,堆肥になりにくい。一方,稲わらは,クチクラ/シリカ層が非常に薄く,腐るので,堆肥になりやすいことがわかる。図3には,シリカが籾殻のどこに存在するかをわかりやすく示すために,籾殻断面の反射電子像とSi-Kα線像を示した。反射電子像は籾殻断面の形態,Si-Kα線像はシリカがどこに分布しているかを示している。シリカが多く含まれている領域は白色で表され,少なくなるに従って,赤→黄→緑→青となっていき,黒色の箇所では全くシリカは含まれていない。籾殻に含まれているセルソースなどの有機質は籾殻断面の中心に存在し,外表面側の外表皮の外側には表面が半球状のクチクラが存在し,その中にシリカが分散している。シリカは半球状表面下に多く分布している。米粒に接している内表面側には,内表皮の外側に薄いクチクラがあり,その中にシリカが分布している。外表皮と内表皮上のシリカの存在量は2.4:1(重量比)と報告2)されているが,図3によれば,外表皮側のクチクラにより多くのシリカが含まれていることがわかる。
稲の茎及び葉に蓄積されたシリカは,骨格として態勢を良好に保ち,光合成を十分行えるように受光しやすくしている。一方,籾殻に含まれるシリカは,種子を保護したり,太陽光線中の紫外線から種子中の遺伝子を保護するといわれているが,詳細は明らかではない。
また,図4(c),(d)には,未粉砕の一個の籾殻を900˚C,1時間,空気中(100ml/min)での処理により得られた灰の形状を示した。籾殻灰の外界に接している表面は,幾分かは収縮しているが,並んだ半球状の突起物の形態をほぼ保っている。米粒に接している表面(d)では細胞壁が観察される。灰の形状は,籾殻中心部にあるセルロースなどの有機質やシリカと混在しているクチクラが焼失したもので,灰内部に空間が多かった。表1には,北海道内のライスセンターで米麦乾燥用の熱風発生装置として稼働中である流動旋回燃焼炉WHB-450-M(北糖エンジニャリング㈱製)で,籾殻供給量450kg/h,温度900±100℃,滞留時間4時間の条件で籾殻を燃焼させ,得られた籾殻灰の組成を示した。この灰には,SiO2が96.5wt%含まれている。このことより図4(c),(d)の灰は表1の籾殻灰と同じものであり,従って,これらのSEM写真は,SiO2の形態を示しているものと考えられ,非常に粉砕しやすく,表面積が数10m2/g程度の灰が得られた。
さて,最後にどのようにシリカが外表皮と内表皮の外側にあるクチクラに蓄積されるかを考えます。クチクラは角皮素(クチン)を主成分とする有機物で,生物体を機械的に保護するとともに植物体内の水分を水蒸気として体外に発散する蒸散を防ぐ役割を担っています。蒸散を防ぐと言っても若干の表皮からの蒸散(クチクラ蒸散)はあります。シリカは灌漑水あるいは土壌中のケイ酸イオンを根を通して吸収し,蒸散流によって,茎,葉,籾殻の外表皮の外側にあるクチクラに達し,そこで水を失い非晶質のシリカになると考えられています。4配位のケイ酸イオン中のケイ素原子は,4個の酸素原子によって囲まれた四面体構造をとり,この四面体が一個から無限個まで連なったいろいろな種類が知られています。イオン構造を見ると,オルトケイ酸イオン(SO44-),ピロケイ酸イオン(Si2O76-),Si3O96-,Si6O1812-などの環状ケイ酸イオンが知られていますが,共存する陽イオンにもよりますが,水にごくわずか溶けます。知られている化学平衡式はオルトケイ酸イオンの場合で,図5に示してあります。灌漑水や土中には肥料由来のK+イオンが含まれ,塩基性溶液中ではH2SiO42-が含んでいると報告されていますが,pHや濃度によって重合したポリケイ酸イオンも存在することが知られています。水中のケイ酸イオンがクチクラの中で水を失い,シリカになる(表面には水酸基(-OH)が一部残存)ことから,シリカとクチクラは分子レベルで混在していると考えられます。このことが,鉱物質のシリカとは異なる特性を持つと予想されます。
1-3 シリカ資源としての籾殻
籾殻SiO2は稲という生体中に蓄積され,籾殻燃焼により得られる灰は,表面積が大きく,粉砕しやすいという特色がある。更に,大きな特色として,稲作により毎年生産されるということが鉱物のSiO2とは異なる点であり,最もユニークな特色である。
籾殻中に含まれているSiO2をシリカ原料として利用する場合,産地により籾殻灰に含まれるシリカの含有量のばらつきが問題となる。表2には,世界各地の籾殻灰の化学成分3)を示した。表中のSample No.14にはHouston4)により報告された全世界中の籾殻灰の化学成分の範囲が示されている。灰の一般的特徴として肥料から由来する K2Oが多いことである。試料番号12のブラジル産の籾殻灰の場合,灼熱減量が26.8wt%と高い値を示している。不完全な燃焼条件で,未燃の有機質(炭素)が残存したためである。灼熱減量が3wt%とすると籾殻灰中のシリカの含有率は91.7wt%となる。世界中の燃焼灰にはシリカが90wt%以上,酸化カリウムが1~2.8wt%含まれていることから,地域,ジャポニカ種,インディカ種であろうとも化学組成には大きな差異は見られず,また,肥料由来のカリウム分も多く含まれていることがわかった。
籾殻灰をシリカ資源として利用する場合,籾殻の発生量が問題となる。表3に,2010/11年の世界の米の生産量,籾殻量,灰の量を示した。
5)毎年約2200万tonのシリカが稲作により生産されていることがわかる。日本は世界第10位の産出国で,籾米981万tonから発生する籾殻は196万tonである。籾殻196万tonに含まれるシリカの量は,SiO
2含有率20%として計算すると39.3万tonとなる。現在,半導体,太陽電池などの分野で用いられるSi金属は約9万tonで,これはSiO
2換算19.3万tonと同等である。籾殻中に含まれるシリカで十分日本の半導体,太陽電池などの高純度ケイ素源はまかなえることになる。
ここでは籾殻中のSiO
2について述べているが,籾殻以外の稲の茎部,即ち,藁に部分にもSiO
2が乾燥藁の11〜15wt%含まれている。藁は籾殻の重量で5倍の収量であるので,その量は,籾殻の約4倍のSiO
2が藁中に含まれていることになる。稲作には,肥料としてケイ素が必須と言われており,SiO
2を田畑から収奪し過ぎると米の収穫に悪い影響が出ることになる。稲のケイ酸吸収量の解析結果6)を図6に示した。籾と藁の重量比は1:1,10アール当り500kgの籾と500kgの藁の収量がある。籾に対する籾殻の割合は20wt%,籾殻のシリカ含有率を20wt%,藁のシリカ含有率を15wt%とすると,籾殻のシリカは 20kg,藁のシリカは75kgとなる。籾殻のシリカは,稲の全シリカの約20%程度である。次に,シリカ源として潅漑水と土壌について考察する。潅漑水のシリカ(この場合,水溶性ケイ酸)濃度を20ppm,潅漑水量1500ton(10アール当り)とすると,潅漑水から供給されるシリカの量は30kg,残りの65kgは土壌から稲が吸収したことになる。このことは,もし,籾殻も藁もシリカ源として水田から収奪すれば,水田土壌のケイ素分を不足させ,稲の成長にも悪い影響があらわれることを示している。もし,藁を水田に返し,籾殻のみをシリカ源として利用した場合,10アール当りの水田の土壌からは65kg吸収されているが,藁を還元することにより75kgのシリカが水田に還元されることになる。籾殻中のシリカは,潅漑水のみからのシリカを利用していることになり,米の収穫には影響はないものと考えられる。
以上のことにより,ケイ酸植物である稲をシリカ源として利用する場合,米の生産により得られる籾殻のみを利用するのが自然サイクルを考える場合,最も適しており,毎年籾殻からコンスタントにシリカを入手することが可能になる。言い換えれば,川水が流れ下る際に土中のごくわずかなシリカがケイ酸イオンとして溶け,このケイ酸イオンを稲が根を通して籾殻の表皮細胞の外にあるクチクラに蓄積し,これをシリカとして利用するもので,自然から何ら収奪,環境破壊を引き起こさない資源といえる。
1-4 籾殻シリカの反応性
籾殻中のSiO
2の特色として,粉砕性がよいことは籾殻灰の断面の電子像,SiKα線像(図7)から明らかである。稲の生体中に蓄積されるSiO
2は,ケイ酸ゲルとして根を通し蒸散流により,籾殻の表皮細胞の外側にあるクチクラに分散し,そこでケイ質化する。図4の燃焼灰の内側表面には細胞壁にシリカが存在しており,ケイ酸イオンが細胞壁に沈積して形質かが進行したものと考えられる。このことから非常に微細なシリカが生成したものと考えられる。この様なSiO
2の反応性は,鉱物のSiO
2とは異なるものと予想される。この点を利用することにより,従来の鉱物シリカよりはより低温で反応しやすいなどの特徴を示すことができる。気相の四塩化ケイ素を酸水素炎中(最高温度2800˚C)で処理すると微細な非晶質シリカ粉体(エアロジル)が生成する。粒径は10nm程度であるが凝集している。籾殻シリカはこのエアロジルに匹敵する粒径を持ち,ケイ酸イオンから室温でケイ質化するので,籾殻シリカ表面の構造はエアロジルとは異なり,より多くの水酸イオンが残存していると考えられる。後章で紹介する籾殻利用研究は,この特異な性質を持つ籾殻シリカの高反応性を利用するものである。
1-5 籾殻の既存の処理・利用方法
近年,わが国では,農業の近代化・機械化に伴うライスセンター(RC)及びカントリーエレベーター(CE)の設置により籾殻の集中的発生が見られるようになってきた。特に,カントリーエレベーターでは,出荷にあわせて,脱穀するので,収穫期の秋に籾殻の発生が集中することは無くなるが,まだカントリーエレベーターが広く普及しているとは言えない。
籾殻の主な用途として,梱包用充填材や苗代の被覆材などがあったが,プラスチックが多くを占めるようになり,最近では,表4に示したように60%が農業資材として利用されている。表によれば籾殻の20%が廃棄されているに過ぎず,シリカ源として利用される量としては,79000トンになり,多結晶シリコン製造に必要な量の40%程度になる。表4
7)の利用先に堆肥とあるが,図2,3に示したようにシリカの層が籾殻の中心部にあるセルロースなどの有機質を取り囲んでいる構造であるので,籾殻は腐りにくく,堆肥には不向きである。(籾殻を粉砕して堆肥にする方法があるが,シリカ層は硬く,粉砕は容易ではない)腐りにくい点を利用して暗渠資材に使用しているのである。畜舎敷料にしても使用後の処理を考えなくてはならない。また,籾殻は比重が0.1程度で,非常にかさばり,風にも飛散しやすい,このような籾殻を暗渠に投入する際に取り扱いが面倒になる。要するに田畑で焼却して廃棄するときは煙害を引き起こすこともあり,籾殻には最適な処理,利用法が無く,問題があるにもかかわらず,使用しているのではないかと思われる。一方,稲藁の利用状況も表4に示したが,稲藁の場合は,シリカ層が薄く,腐植しやすいので,堆肥に適している。焼却している稲藁を堆肥に使用する方が得策である。しかしながら,稲作にはケイ素が必須である。図5で述べたように,籾殻を利用し,稲藁を堆肥で田畑に還元するなら,ケイ素分を肥料として施す必要はない。表5の稲藁のるよう状況で,鋤込みからマルチまで最終的に稲藁は田畑に還元されるが,工芸,焼却は田畑からシリカを収奪するのみで,ケイ素の循環サイクルからは良いとは言えない。実際,水田には不足するケイ素を補うためにケイ素肥料として製鉄所の鉱滓が施されている。
次に,既存の籾殻シリカの工業的利用について表5に示した。
セメントの分野では,省資源,省エネルギー及びセメントの諸性状の改善のため,多種多様な混和材がセメントに配合されているが,この一つに籾殻灰が使用できるとの指摘がなされている。セメントの水和反応性には混和材の非晶質の量と比表面積が関係するとされるが,非晶質を30〜50%含む比表面積2〜7m2/gの籾殻灰を用いて検討した結果,良好な結果が得られたと報告している。また,籾殻灰中のシリカは一次粒子はサブミクロンオーダーの超微粒子でありホワイトカーボンと同様の反応性が期待されるため,これを加工して,加水不要かつ収縮性のない特殊セメントをつくることができ,鋳造用金型として用いるなど新しい用途が期待されている。以上の二つの例は開発中で実用化には至っていない。タイでは籾殻を熱源に使用し,蒸気発生や発電に利用しているが,この時に発生する灰はセメントに利用されている。
籾殻中の活性なシリカと水酸化カルシウムのスラリーを水熱合成して合成されるゾノトライト系ケイ酸カルシウム保温材などの住宅用建材をつくる研究が行われた。20)この技術は工業技術院九州工業技術試験所(現,産業技術総合研究所九州センター)が開発したもので,昭和61年から5年計画でマレーシア政府と協力し,現地にモデルプラントを建設し,パイロットプラント運転試験を行い良好な結果を得た。マレーシアをはじめとする東南アジア地域は米作地帯であり,他に余り用途のない籾殻の処理が大きな問題となっている。このプロジェクトでは,籾殻を熱源として利用した後,得られた灰に石灰やガラス繊維を混ぜて固めるもので,出来上がったボードはプラント,断熱材,一般住宅用軽量建材として幅広く利用できるという。
セラミック分野では,SiCやSi3N4ウィスカーの製造について研究された。ウィスカーは,微小繊維状結晶で完全結晶に近く,強度は理論値に近い値を示すことが知られている。ウィスカーは,セラミックス,金属,プラスチックスマトリックス中に分散させられ,複合強化材として利用される。この様なSiCウィスカーを籾殻中のシリカを原料として製造する試みが,1975年にLeeとCutler8)により初めて報告され,その後,多くの研究者9)により報告されている。Si3N4ウィスカーについては,Mansourら10)により報告されており,これらウィスカー製造に関して多くの特許が提出されている。SiCウィスカーの実用化では,Exxon社が開発に成功し,その後,ARCO社に引き継がれ生産されているといわれている。しかし,SiC及びSi3N4ウィスカー製造は,1975年のアスベスト吹きつけ禁止以来,ウィスカーも針状結晶であるので,アスベストと同様な問題点が指摘され,現在では全く製造されていない。
籾殻を出発原料とするSiCやSi3N4焼結体の製造では,籾殻中のシリカの特色である大表面積,高活性,高分散性(SiO2の粒子が細かい)などウィスカーの製造には有利な点が多い反面,易焼結性であるけれども寸法精度(焼結性が高いために大表面積,高活性粉体の圧粉体を焼結すると大きく縮む)が悪いという欠点がある。また,籾殻中の無機質のシリカの含有率は,87〜97%で,不純物としてFe2O3,K2O,CaOなどを含んでいる。これらの不純物はウィスカー成長を促進するが,焼結体の強度の低下を招く。籾殻は,低純度の製品を製造するのには良いが,純度を制御し,より機能を高めようとする場合には難点となる。籾殻あるいは籾殻灰を高純度化することが必要である。
籾殻を蒸し焼きにし,シリカと炭素の混合物である籾殻炭化物を製造し,これをペレットにし,アーク炉に送り込み,直接SiO2から金属ケイ素を製造するプロセスが Huntら11)により報告されている。このプロセスでは,籾殻炭化物を塩酸(HCl)でリーチングし,Ca,K,Mgなどの不純物を取り除き,クリーンな炭化物をつくり,これから金属ケイ素(MG-Si)と太陽電池用アモルファスシリコン(solar-grade-Si)を製造しようとするものである。このプロセスの難点は,籾殻炭化物ペレットを1100˚C以上に加熱した場合,SiO2+CSiO+COの反応が起こり,蒸気圧の高いSiOやCOガスが急激に発生し,アーク炉内でペレットが破壊され連続運転が不可能となることであり,実用化には至っていない。籾殻炭化物中のシリカが鉱物シリカより高活性で,SiO転化率が高く,また急激に発生するためと考えられている。
籾殻シリカを工業原料として利用する場合,シリカが高表面積,高活性,微粒子という利点があるものの不純物濃度が高いために,用途の範囲を広げることができないと考えられる。
1-6 籾殻シリカの製造法
1-6-1 籾殻の燃焼
乾燥籾殻にはセルロースなどの有機質が約80wt%,無機質が約20wt%含まれている。北海道岩見沢産の籾殻無機質の化学成分,比表面積を表6に示した。シリカが主成分で肥料由来のカリウムが多く含まれているのが特徴である。
籾殻の熱特性を調べた
12)。籾殻を粉砕して,粒径152μm以下の粉末を調製し,これを用いて籾殻の熱的挙動を調べた。籾殻粉末は,籾殻を籾殻圧縮らい潰機(みずほ熱機(株)製)により,温度200〜300˚C,圧力100±50 ton/cm
2で圧縮し,籾殻固形分を製造した。その後,この固形分を粉砕し,粒径152μm以下の籾殻粉末を得た。得られた粉末の水分は,6.8wt%,また,SiO
2含有率は,107˚C,1時間,真空中で乾燥後の籾殻粉末の30.4wt%であった。(籾殻の有機質の一部は,籾殻固形分を製造する際の加熱処理により失われる。)
この粉末を空気中,アルゴン中で加熱した時の熱的挙動をTG-DTAで調べた。図8には籾殻粉末の空気流通下(50ml/min),昇温速度10℃/minで測定したTG-DTA曲線を示した。室温から100℃までの減量は付着水と考えられる。322と423℃にピーク頂点を持つ二つの発熱ピークが観察された。これらのピークは,セルロースなどの熱分解による揮発ガス成分の燃焼と熱分解残渣中の固定炭素などの可燃分(固定炭素または炭分)の燃焼によるものである。
図9には,籾殻粉末をアルゴン
気流中(50ml/min)で測定した結果を示した。200℃付近から減量がはじまり,最も減量速度が大きくなる(DTAピークの位置)のは346℃である。500℃からはなだらかな減量となる。200から400℃の大きな減量領域では,白煙,黄土色の気体(揮発成分)の発生が認められた。これらは,セルロース等の有機質分の熱分解により生成した低分子物質と考えられる。アルゴンなどの不活性ガス中での熱処理,あるいは,部分酸化するように酸素濃度を調整したガス中で燃焼させることにより,燃料ガスを製造することができる。600˚Cまでの加熱で7wt%の水分,48wt%のセルロースなどの分解により生成したガス状成分,固定炭素25wt%,シリカなどの無機成分30wt%であった。
図10には,籾殻を600˚Cのアルゴン中で
1時間処理し,有機物を熱分解させ,取り除いた籾殻熱分解生成物(PRH:
Pyrolyzed
Rice
Hulls)を空気気流中で測定したTG-DTA曲線である。固定炭素は439˚Cで燃焼し,図5の二段目の423˚Cの発熱ピークとほぼ同じ温度にピーク頂点があることから,二段目の発熱ピークは固定炭素の燃焼によるピークである。
図8,10のTG-DTA曲線では,990℃付近に発熱ピークが見られている。このピーク前後では,重量変化はみられず,X線回折結果より非晶質のSiO2からクリストバライトへの結晶化によるピークであることがわかった。
ここで述べた熱特性を利用して,籾殻は燃料として利用されている。籾殻の燃焼によって得られる熱量は3700〜4000Kcal/kgで,褐炭より若干少ない発熱量を持つ燃料である。ただし,20wt%の灰が発生する。
籾殻から熱を取りだし,SiO
2が主成分の灰が大量に排出されることがわかった。籾殻を900±100˚Cで流動旋回燃焼炉を用いたときに得られた籾殻灰の分析値を表1に示してある。表1からわかるようにSiO
2は96.5wt%という純度で決して高くはない。また,肥料から由来するカリウムも多く含まれている。更に,未燃の炭素が1.3wt%も含まれている。この炭素の影響で得られた灰の色は黒灰色であった。灰の形態を図11に示しました。灰の粒子表面は溶融した後,固化した形態を示している。このことは灰に含まれているカリウムとシリカが反応し,融点の低いポリケイ酸カリウム(K
2Si
nO
2n+1: カリウムの含有率からnの値の大きいポリケイ酸カリウムと考えられる。) が生成し,灰の溶融をもたらし,その際に未燃の炭素をポリケイ酸カリウム融体中に取り込み,その結果,炭素は酸素と触れなくなるため,未燃として残り,黒色を呈したものと考えられた。
シリカの化学式はSiO2で,石英,クリストバライト,トリジマイトなどの結晶構造を持つ多形で,かつ,非晶質でもある。籾殻シリカは籾殻の状態では非晶質であるが,燃焼によって高温に曝されるので,籾殻シリカが燃焼によってどのような結晶構造に変化するか調べた12)。
籾殻を燃焼させた場合,得られる灰中には数%程度の炭素が残存し,その後,空気あるいは酸素気流中1300˚Cで処理してもこの炭素は取り除くことができなかった。籾殻をそのまま燃焼させると籾殻の熱分解生成物 (揮発成分)の燃焼により高温となる(籾殻100gを十分な空気の供給のもとに250˚Cに加熱すると揮発成分の燃焼が生じ,燃焼温度は1000˚Cになる)。籾殻の熱分解生成物による燃焼温度の暴走を防ぎ,籾殻中のSiO
2の燃焼温度による挙動を正確に追跡するために,PRH1gを横型電気炉で,含まれる固定炭素を400˚C~1500˚Cで酸化し籾殻灰を得た。得られた灰中のSiO
2の各種性状を調べた結果を表7に示した。また,各温度でのPRHの燃焼後の籾殻灰の形態を図12に示した。昇温速度は室温から所定の処理温度に到達するまでの速度である。籾殻灰中のSiO
2の含有率は高温ほど増加し,灰の色は700˚C以上ではピンクがかった白色となった。炭素含有率は900˚C以上では0wt%であった。燃焼温度900˚Cの灰の表面は溶融した粒子が固化した形態であったが,600˚Cでは灰粒子の一部が固化した形態を示していた。このように灰に含まれているカリウムがシリカと反応して融点の低いガラス質のポリケイ酸カリウムを形成するためと考えられた。灰のX線回折結果より,800˚C以下ではd値が4.1~4.2Åにピーク頂点を持つ幅広い回折線からなる非晶質のSiO
2であった。900˚C以上ではクリストバライトとトリジマイトの最大回折ピークのみがみられた。処理温度が高温になるほどトリジマイトの最大回折線は大きくなった。処理温度400˚C~800˚Cの灰のDTA測定より,981˚C~991˚Cに発熱ピークが観察され,ピーク前後のX線回折より,このピークは非晶質からクリストバライトへの結晶化によるものであることがわかった。900˚C以上の処理温度で得られた灰にはこの発熱ピークは存在せず,SiO
2はクリストバライトであつた。市販SiO
2では,処理温度1500˚Cで非晶質からクリストバライトに結晶化した。籾殻灰中のSiO
2の方が市販品より600˚Cも低温で結晶化した。籾殻シリカが低温でクリストバライトやトリジマイトへの結晶化が促進されるのは,灰中に含まれる肥料由来のカリウム塩やカルシウム塩の融点が低く,これらの塩が溶融することにより,結晶化が促進されたと考えられる(たとえば,硝酸カリウム(KNO
3)の融点は333˚C,硝酸カルシウム(Ca(NO
3)
2)は561˚C)。籾殻灰の形態の観察結果(図9)も900℃以上の燃焼温度で籾殻灰表面が溶融固化した形態を示している。
表8にはPRHの1000˚Cに到達するまでの昇温速
度の炭素含有率,SiO
2の結晶形への影響をまとめてある。昇温速度が大きいほど,灰中の残存する炭素含量が多く,色も黒色になる。通常の燃焼では,籾殻は火炎中に投入されるので,表3の傾向から見ると,より多くの炭素が灰中に残存し,シリカ中の取り込まれてしまうと考えられる。
籾殻灰のもう一つの大きな問題は,900˚C以上の燃焼温度以上で結晶化し,非晶質のSiO2からクリストバライトになることである。国際化学物質安全性カードISCS-0809と-0808によると,微細なクリストバライトと石英には発がん性があり,粉じんの拡散を防ぎ,吸引しない対策が必要とされている。図9のSEM写真にもあるように,灰に含まれるカリウムにより融点の低いポリケイ酸カリウムになり,一部の灰が溶融固化した形態を示し,粒子は大きくなるが,一部は微細な粒子として残存している。タイでは籾殻燃焼による発電が行われ,大量の灰が発生しているが,この灰が河川に流れ込み,水質,魚類に深刻な影響を招いている。籾殻燃焼を利用する場合は,その灰の対策が必要で,灰を田畑に放置し,シリカを田畑に還元するという行為はやめるべきであろう。最近の研究では、籾殻中に含まれている非晶質シリカは800℃以上の燃焼温度でもクリストバライトへと結晶化することがわかってきた。現在の浮遊旋回燃焼法や火格子燃焼法、床燃焼法での燃焼温度は800℃〜1000℃であり、現在稼働中の燃焼炉ではほとんど結晶性シリカを排出していることになる。一方、現在開発中である流動層燃焼法については燃焼温度を800℃以下にすることが可能である。(株)トロムソでは、火格子燃焼法や床燃焼法で浮遊粉塵中にクリストバライトなどの結晶性シリカを放出しない方法を発明した13)。又、籾殻シリカの結晶化の研究より、1500℃の燃焼温度までシリカを非晶質の状態に維持する方法を見いだした13)。非晶質シリカには発がん性は報告されておらず、安全に籾殻をエネルギー源として利用することが可能になった。
1-6-2 籾殻からの高反応性・高純度SiO2の製造
シリコン関連の材料は産業分野で特に重要な材料である。例えば,半導体,光ファイバー,シリコーン樹脂などの広い分野で,また,重要な分野で使用され,現在社会では最重要材料である。図13にシリカを初生原料とする製品やそれを生産する産業分野について示した。これらの分野で利用されている原料は高純度ケイ石・ケイ砂で,純度はSiO
299%以上である。Si元素は地殻には25.8%含まれており,酸素に次いで多い元素であるが,Siの多くは他の元素と複塩を形成している。純粋なSiO
2は水晶に見られるように地殻には多くはないが,中国,インド,マダガスカルなどに局在している。日本では以前は採掘されていたが,宅地化が進み,また,不純物として鉄を多く含むケイ石が多くなり,図13に示されているような分野に使用されるケイ石は採掘されていない。後で述べるが,図13の産業分野では中間の原料として金属ケイ素である。地殻に多い酸素とケイ素が結合し,SiO
2として存在するが,このSiO
2(結晶)の生成熱は859KJ/molと非常に大きく,すなわち,非常に安定で,地殻の中にSiO
2単独もしくはSiO
2を含む複塩の形で存在している。従って,Si-Oの結合エネルギーは430KJ/molで,この結合を切断して金属ケイ素を得るためには多大なエネルギーが必要である。
籾殻は稲作により何回も生産され,図6で述べたように自然のサイクルを壊すものでもない。籾殻を使えば鉱物資源のように自然破壊や枯渇を招くこともない。しかしながら,燃焼灰から得られる籾殻シリカの純度は90%程度で低く,またばらつきがある。更に,籾殻灰は主成分がシリカであるにもかかわらず,ポリケイ酸カリウムガラスに取り込まれ,灰色である。図13に示したような産業分野に籾殻シリカを利用する場合は高純度化する必要がある。著者は籾殻シリカを簡単な処理で99%以上のシリカを得ることができたので,紹介する。
表6に示したように籾殻の無機質に
はシリカの他,鉄,カルシウム,アルミニウム,カリウムの酸化物あるいは水酸化物として含まれている。シリカの由来を考えるとシリカと複酸化物を造っているのではなく,別の化合物として存在している。当然,収穫時に土壌が紛れ込んだ可能性もあるが,実験,分析に用いた籾殻は水洗しているので,土壌由来の化合物はごくわずかと考えられる。従って,シリカの複酸化物でないとすると,酸洗いで容易に除去できると考えられる。不純物のHCl環流による除去の手順を図14に示した。ここでの要点は,籾殻から最初に不純物を除去することである。籾殻燃焼灰では,燃焼により容易に600˚C以上に温度が上昇するので,シリカとカリウムの反応が生じ,ガラス状のポロケイ酸ナトリウムができ,これが炭素を始め不純物をガラスの中に取り込んでしまい,灰から不純物を取り除くことは難しい。また,不活性ガス中で処理をして籾殻炭化物にした場合も,炭化温度が600˚C以上ではシリカとカリウムの反応が生じてしまう。その結果,籾殻炭化物の燃焼により得られる灰も籾殻燃焼灰と同様に炭素,不純物を含むことになってしまう。HClリーチングにより不純物を取り除いた籾殻を不活性ガスである窒素中600˚Cで処理をし,セルロースなどの有機質を分解し,籾殻炭化物を調製した。リーチングした籾殻から調製した籾殻炭化物の成分は,シリカ+不純物は50.5wt%,炭素は49.5wt%であった。リーチングしていない籾殻から調製した炭化物の成分は,シリカ+不純物は43.0wt%,炭素は57.0wt%であった。リーチングにより炭素含有率が減少したのは,希塩酸にセルロースの一部が溶出するためであり,リーチング液は,薄い黄褐色を帯びていた。次に,籾殻炭化物を空気気流中600˚Cで加熱処理することにより,炭素をCO
2として除去し,SiO
2を得た。この理由は,図8〜10で述べたように籾殻をそのまま燃焼させると320〜350˚Cでセルロースなどの有機質が分解して生成するガス成分のために燃焼温度の制御が難しく,燃焼温度が急激に高くなる。その結果,生成するSiO
2は高温に曝されるために反応性の高い非晶質のSiO
2が得られなくなるためである。
表9にはリーチングおよび非リーチング籾殻から炭化を経由して調製されたSiO
2の化学組成を示した。HClリーチングにより,99.84%の純度のSiO
2を調製することができた。この籾殻シリカは平均径が0.3µmの凝集粒子であり,結晶系は非晶質で比表面積は311m
2/gであった。鉱物のケイ砂は平均粒径が20µmの角張った形状の粒子で非表面積は3m2/g,ケイ酸ナトリウム溶液と塩酸の反応により生成するシリカヒドロゲルを乾燥して得られるシリカ(試薬として市販されている)は非晶質で、平均粒径20µmの球状粒子で、非表面積は4m2/gである。籾殻シリカは非晶質で,表面積はケイ砂,市販シリカと比べ,二桁も大きく,このことからも反応性の高いユニークなシリカと言える。
表9の籾殻シリカは径が0.3µmの凝集粒子
であった。詳細な形態を走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。その結果を図15に示した。SEM像では,細かい粒子が凝集しているのが観察される。この一部を拡大したのが,TEM像である。平均直径が30nmの一次粒子が凝集しているのが観察された。シリカ系の微細な粒子としてアエロジル®が知られている。アエロジルは四塩化ケイ素(SiCl
4)を酸水素炎中で気相反応により,微細シリカを製造している。一般的なアエロジルは非晶質で一次粒子径は10nmで,その表面には9.6mol%(600˚C以上1000˚Cまでの温度域での減量をOH基量とした)のシラノール基(≡Si-OH)が含まれている。籾殻シリカでは,シラノール基が11mol%も含まれ,ケイ酸イオンがクチクラ層内で水を失い,室温でシリカに転換するためと考えられる。
高純度籾殻シリカを得るには籾殻中の不純物を100˚Cで3%(v/v)HCl溶液で溶出させたが,実験室の還流装置は籾殻10gを処理できるバッチ式であった。効率よく,大量の籾殻を処理するためには図16に示した高剪断力・高温・高圧ニーダー(鈴木商工(株)製)が最適である。5MPaの圧力下の希塩酸溶液中に100kg/hrの籾殻を最大5MPaの剪断力をかけながら押し込み,不純物を希塩酸溶液中に溶出させる装置である。図3に示したようなシリカが分散している堅いクチクラを高剪断力で破砕し,高温高圧の希塩酸溶液で不純物を効率よく取り除くことができる。
引用文献
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5)Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO) – FAOSTAT – Production, Crops, Rice, Paddy, 2012.
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10) N.A.L. Mansour and S.B. Hanna, “Silicon carbide and nitride from rice hulls-II. Effect of iron on the formation of silicon carbide “, Trans. J. Br. Ceram. Soc. 78(6), 132 (1979).
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12) 中田善徳,鈴木正昭,奥谷 猛,菊地昌伸,秋山健夫: 籾殻からのSiO2の製造及びその性状, 日本セラミックス協会学術論文集, 97(8), 842-49(1989).
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13)「バイオコークスの製造方法」特願2017-192910、2017年10月2日出願。発明者:中坂征洋、奥谷猛、巻幡 強、上杉正章
「バイオマス原料及びその製造方法」特願2017-192911、2017年10月2日出願。発明者:中坂征洋、奥谷 猛、巻幡 強、上杉正章
文責:籾殻研究センター
奥谷 猛